壺に魅せられて -へり軌跡-
食虫植物。
昆虫などを誘引、捕獲、消化、吸収する植物の総称。
出会いは幼少期に祖父が買ってくれた植物図鑑。
ウツボカズラの奇をてらい主張する姿に衝撃を受けた。
しかし普通に生活していても食虫植物とは出会えない。
日本にいたら出会わなくて当たり前の本の中の存在だと思っていた。
気付いたら植物とは無縁な生活をして成人になっていた。
2010年
石化柳が玄関にいけられているのを見て突然いけばなをはじめる。
親に正気か?と疑われる。
いけばな教室のすみで目にした植物園のフライヤー。
『ズームイン食虫植物』
表紙には緑のウツボカズラ、ビカルカラタがどっしりと鎮座していた。
「最後に実物を見たくなったあなたへ…食虫植物展のおしらせ。」
迷わず冊子に載っていた咲くやこの花館に直行する。
植物園の帰り道、熱くなったまま園芸店を手当たり次第回る回る回る。
目当てはもちろんウツボカズラ。
無いだろうとあきらめつつも、根性で回っていたら閉店セールをしているお店の最終日と出会う。
5000円で大鉢ウツボカズラ3種、小鉢苗8つをGET。
こんな良い買い物したことない。
この出会いは本当にご縁だったと思う。
おっちゃんがレジではなくポケットに新渡戸さんを入れたの私忘れないw
いつも書き殴っていたブログに食虫植物の事を書いてみた。
関西食虫植物愛好会の大阪屋氏に関西集会とイベントに遊びにおいでよと速攻でナンパされる。
のこのこ出かける事数回、帰宅時には毎度両手いっぱいの食虫植物を抱えていた。
秋になった。
食虫植物をたくさん買ったは良いが、冬場の管理方法の限界に気づく。
良かったのか悪かったのか最初のウツボカズラが大株だった事、
集会に参加していろんな苗をかき集めてしまったため衣装ケース案は即却下。
財布がさみしくなるのを泣く泣くあきらめ、ピカの軒下温室を購入する。
1人で8時間かけて組み立てる。あれは間違いなく2人以上必要だった。
なんとか出来上がったのは夜。ふところも外気も超寒いが植物は温そう。
その冬、電気代でさらにふところ事情は悪化。
諭吉の背中には羽根が生えている。
食虫にハマって半年。
草仲間に「出かけるけど一緒に来るか」と誘われ、どこに行くのか誰に会うのかもわからないままノコノコとついていく。
「神がおるところやで」
…天国かな?どういうこと。
まぁいいや、で大阪のご近所5名が車に乗って揺られること約2時間。
到着して聖地と呼ばれる食虫植物温室に驚愕。
あ、天国。
頭の中は真っ白。
そう、この場所こそ私の人生を大きく狂わせた兵庫県立フラワーセンター。
なんか物腰柔らかい優しそうなおっちゃん物陰から出てきた。
否!彼こそが食虫神、土居寛文技師。後の「ちょーかおじさん」である。
神流の植物育成方法をひたすら模倣(したつもり)の日々。
「学ぶは真似ぶ」と言い聞かせ片道2時間を月参。
2014年
時は少し流れ、精神肉体同時に追われる生活を強いられ七転八倒。
ずっと先輩方が影で嘆かれてきた「新人だいたい3年続かない」
なんなら目の前で言われた「女子は続かない」
何くそで争おうとしたが、4年目あたりで少し遅れてその意味を身をもって知る事となる。
というか植物育成どころか人生に挫折しかける。
2016年 夏
草仲間たちに助けられ人生も植物育成も返り咲き成功。
なんだよ草仲間って最高かよ。
2017年 夏
「ただでは起きぬのだよ、ただでは!」とか言いながら2杯食べてたご飯を1杯にする覚悟で庭に一坪温室(ネペンテス低地性用)を建てる。
軒下温室は珍奇植物・山野草たちの置き場へと変貌した。
もう戻れないところまできた。なんとなくそんな気がする。
2019年 春
復帰して以降、関西食虫植物愛好会として色々なイベントに出るようになった。
食虫植物の魅力をもっと世間に知ってもらい愛好家の裾野を広げるため!
来年迎える食虫植物国際会議に向け趣味家を増やすため!!
何を血迷ったか?勢いだけで食虫植物オンリーイベント「Carnivorous Plants Carnival」を地元の東大阪市で開催してみる。
いつもお世話になっている関西食虫植物愛好会の植物販売のほか、食虫植物農園のヒーローズピッチャープランツさん(山梨県)を初関西イベントに誘致、さらに兵庫県立フラワーセンター土居技師に講演してもらい…
と周りを盛大に巻き込んで、たくさんの人に助けられながら無事にイベント終幕。
「会場狭い」は合言葉かなにか?
今年の流行語大賞は間違いなく「会場狭い」だろうってくらい言われた。
すまなんだ。だがしかし壁は広げられない。次があるなら広いところでやりたい。
2020年 春
突然襲いかかった新型コロナのパンデミック。思う様に動けない日々が続く。
趣味家の待望だった食虫植物国際会議、無期限延期。
2020年 夏
それでも私の「食虫植物の愛好家を増やしたい、夏の風物詩で終わらせたくない!」
その気持ちは色褪せない。
人とろくに会えない状態だからこそ、私に出来ることは何か。
園芸店で出会った食虫植物と1日でも長く楽しむために。
私の人生を変えてくれた植物園や愛好会をもっと知ってもらうために。
愛好家になってくれそうな食虫植物に興味を持ってくれた人を1人でも取りこぼさないために。
YouTubeに「へりっこ植物園」を開設&LINEオプチャに「食虫植物友の会」を発足。
食虫植物界隈、「初めて植物育てます」がなぜかとても多い。
それもそのはず、コロナ禍で空前の「室内園芸ブーム」到来である。
それまで半畳ほどだったサラセニアの水盤をビケ足場6枚水栓付を作り本格化。
この構想の基礎は土居技師の言った「あんなこといいなできたらいいな」を良くも悪くもグレードアップして再現したものである。
何度も言うが「学ぶは真似ぶ」である。パクってるわけではない。
2020年 冬
半分しか埋まっていないサラセニア畑、腰水が暑くなるのは草が足りないから。
などとほざきながら関西の草仲間たちが私のサラ畑に大量にバルブのある草を投下。
無事に畑が全部埋まる。
多すぎる。キャパオーバー!!!内容物把握は早々に諦めることとする。
…ってか今冬やで?
2021年 春
食虫植物国際会議またも延期。
不完全燃焼。
「毛氈の島」突撃を決行。
土居先生、姫路市立手柄山温室植物園の松本先生・朝井先生と企画。
まさかの白花ドロセラトウカイエンシスと出会う。
2021年 夏
でかい台風が来たので、へり畑を暴風ネットで囲う。
台風でもサラセニアが倒れない。何故今までこれをやらなかったのか。
SwitchBotによりライト制御、温湿度管理をデジタル化。
なんかかっこいい。
ただし、外出先で40度を超える温室を確認できてもなすすべはない。
2022年 春
仲良くしていただいていた食虫植物業者、橋本園芸の橋本氏がまだ若いのに突然亡くなった。
国際会議でまた会おうねって言ってたのに。
いつでも聞ける、いつでも話せる…当たり前ではなかった事に気付かされた。
私は橋本氏に聞きたいことが山ほどありました。話したいこともたくさんありました。
また農園にも行きたかった。
彼しか持っていない彼しか気付いていないような草の情報や、なんなら過去の与太話すらもたくさんあったはず。
永い歴史の傍で後世に語り継がれる事なく、ひっそりと消えていく情報や植物が今までにもきっとたくさんあったのだと気付かされた。
なんと悔しいことか。
食虫植物国際会議またも延期。不完全燃焼。つもるイライラ。
「毛氈の島」突撃2を決行。
トウカイ白花の群落をあらためて発見。
昨年からの抱負だったイシモチソウとウトリクラリアも発見成功。
温室・畑の噴霧装置をデジタル管理し電磁弁をつけグレードアップ。
何故今までこれをやらなかったのか。
これでもう長期の外出だって安心である。
2022年 夏
兵庫県立フラワーセンターのトランカータがギネス記録を更新する。
登録時の記録を許可いただき、YouTubeへりっこ植物園で生配信。
へりっこ、取材されたテレビ番組で“食虫植物系YouTuber”ととうとう冠が付く。
2022年 秋
国際会議ないけど!トランカータがギネス更新したよ!
国際会議ないけど!土居技師が還暦だったよ!
国際会議ないけど!土居技師だけじゃなく日本食虫植物愛好会の田辺氏、東海食虫植物愛好会の伊藤氏、他にもなんか今年還暦組めっちゃいるんだけど!!!
国際会議ないけど!来年3月に土居技師ご勇退なの!?
2022年は日本食虫植物譚に記録されるべき歴史的記念の年!!(へり調べ)
というわけで紆余曲折あり食虫植物祭(CPC#2)を盛大に兵庫県立フラワーセンターで開催。
もう会場狭いなんて言わせない!と意気込んだら、駅から遠いと言われた。
すまない、駅を増やせる資産は持ち合わせていない。
土居技師を含む食虫植物界隈を前線で引っ張る強強メンツ5名が還暦を迎えた。
還暦祝いも兼ねて前夜祭では約20人が姫路で暴れた。
イベントは開園前行列が36名、愛好家親睦会に48名、温室バックヤード見学会に138名が参加という初めてにしては素晴らしい結果を残すことができた(自分で言うな)。
祭を目的とした詳しい来場者数はわからないものの、昼前にも関わらず園内喫茶店ラルゴのカレーのご飯がなくなる由々しき事態が発生した事を忘れてはいけない。
祭千秋楽の翌日、片付けどころか用意もままならぬまま沖縄に飛ぶ。
いざ行かんやコモウセンゴケの自生地へ。
踊る阿呆に見る阿呆、食虫阿呆は日本を駆ける。そう我こそは食虫阿呆である。
2022年 冬
私にとっての大切なもの、後世に引き継ぎたいものが手元にかなりの数ある事に気づく。
この植物達を存続するにはどうするべきか。
ねぇ私。わかっていたはずだ、そろそろ腹を括ろうじゃないか。
この世界はずっとずっと昔から魔法みたいな植物で溢れている。
2023年 春
食虫植物国際会議が姫路で開催される事が正式に決定。
我慢し続けた3年。長かった。
スタッフとして自生地下見や開催地下見、植物園下見、広報…と、なんか鬼のように忙しい日々を送る。
草も人も満載できる日産セレナ「鹿沼土号」に乗り換える。
さよならNISMO…
国際会議当日「日本」を知っていただくために「いけばな × 食虫植物」を展示。
サラセニア牧場の主人、川北氏にお願いしてサラセニアの切り葉と切り花を大量に送っていただく。
実はこの時もう体調を酷く崩しておられたのだが、愛好家待望の国際会議に牧場のサラセニアを是非にということで出荷を快く受けてくださった。
本当にありがとうございました。
あの日の写真の中で、そして趣味家の栽培場で、川北氏のサラセニアは永遠に生き続ける。
国際会議の余興で浴衣を着てみたり、日本の駄菓子を腐るほど用意してみたり。
まぁ色々と思いつく限りの日本体験が出来る「お・も・て・な・し」をやってみた。悔いはない。
会議の後にある植物園案内と自生地案内を引き受けた。
関西の自生地?それは下見でちゃんと巡ったから割愛!!!
我こそは日光の自生地と最寄駅ピストン現地車両スタッフである。そのためのセレナ8人乗りや!
踊る阿呆に見る阿呆、食虫阿呆は日本を駆けるw
1日かけて愛車鹿沼土号で鹿沼へと飛ぶ。
はじめまして、特別天然記念物「庚申草」。
あなたを育てたいなんて二度と思わない。そんな自生地でした。
自生地のことは日本食虫植物愛好会の会報誌の臨時号に長々と書いたので割愛。
気になる人は購読よろしくね。
国際会議の裏では勢い余った専門店計画も遂行。
施工主、国際会議で日本横断していたため不在のまま内装が完成。
とりあえず人様を呼べる形にせねばと早朝から深夜まで作業が続く。
2023年6月17日
Heli’sGardenの店舗がなんとかオープン!!!
いつもの関西食虫植物愛好会のメンバーや多方面の草仲間に加え、神奈川・茨城・新潟・山口…と超遠方から夜行バスやら新幹線やらレンタカーの乗り合いやらで各地からお友達が駆けつけてくれるなんていうすごい事態に。
すまん店舗8畳で…
店内の酸素が足りません。
植物さんチーム、必死のパッチで「固有スキル:酸素作成」頑張ってください。
そして皆様からいただく開店祝い…お酒やお肉、お花、立花と色々たくさん頂戴しました。
ありがとうございます、がんばります。
それにしても、乾燥水苔が続々と開店祝いに届くのはうちくらいではなかろうか。
2024年 春
特定国内種事業者、農薬肥料販売事業者の登録が完了。
高速道路でオカマをほられる。40日入院。
痺れなどと闘いながら5月にオンライン販売再開。
2024年 夏
半身痺れながらも店舗に立ってみる。昼間がリハビリのため思うように店が開けれない。
モヤモヤしながらもプレオープンを続ける。
杖つきながら、姫路の商工会議所メンバーと「奇草天外」開催。
2024年 秋
食虫植物祭2024を兵庫県立フラワーセンターで開催。
この2年で私の「種の保存」に対する気持ちや「後世へ技術と植物を繋ぐ」気持ちが増大した。
前回より多い出店数。前回よりも広い「花の展示ホール」を使用させていただけることに。
コアな植物ジャンルでオンリーイベント。大盛況と言っても過言ではない熱気と参加者様。
参加者様の中には日本飛び越え海外からの超遠征組もいらっしゃってびっくり。
各地の植物園スタッフ様にも興味を持っていただき来訪していただくことができて感無量。
ご来園者は2日間で約2,000人。本当に本当にありがとうございました。
2024年 冬
祭の後の静けさ…なんてものは存在せず。
環境省、農林水産省、税関、植物防疫所で埋め尽くされる通話記録。
特定外来種に設定されてしまい、輸入は無理と長らく言われ愛好家が諦めていた「ドロセラ」「ウトリクラリア」の海外からの正規輸入に無事成功。
2025年 春
高知の岡村氏や土居先生の援護射撃があり、日本植物園協会に入会。
地道に続けていた、いけばな小原流の一級家元脇教授に昇格。
日本の新食虫植物「ワカクサイシモチソウ」を見るため、土居先生を拉致り鹿沼土号で東京都の離島へ。ここは日帰りするべき場所ではない。
踊る阿呆に見る阿呆、食虫阿呆は日本を駆けるw
2025.04 Helikko@AkoMinami